2-1.テンソルとは何か?そして、相対性理論でなぜ使われるのか?

相対性理論を理解するための数学

テンソルとは何か?相対性理論でなぜ使われるのか?

 

 相対性理論を勉強していく上で必ず出てくるテンソルという数学の概念がある。このテンソルは大学数学を勉強していない初学者からすると、とても取っ付きにくく、私自身も理解するのが難しかった。ただ、テンソルの意味を理解すれば、どれだけ便利であるかが分かると思うので、初めから取っ付きにくいテンソルの定義から入るのではなく、テンソルとは何か?また、なぜ使われるのかといった部分から説明していきたいと思う。

テンソルとは何か?そしてなぜ使われるのか?

 まずテンソルとは、一言でまとめると、

物理法則(数式)が座標変換に対して不変であることを保証するもの

である。これではわかりにくいと思うので、少し話は逸れるが、身近な例を挙げながら説明する。
まず、世の中には様々な人がいて、一人一人少なからず、不平や不満を抱えていると思う。例えば、顔や体型といった容姿や生まれながらの経済的部分で不公平を感じる方もいるであろう。そして、もしかするとその中には神様はなぜこんなにも不公平なのだろうと感じる方もいるかもしれない。しかし、誰かと誰かを比べたときに、あの人とあの人では成り立つ物理法則が違うと感じる方は少ないのではないだろうか。少なくとも私は違うとは思わないし、物理学者も皆ではないかもしれないがそう考えている。

 このことをさらに掘り下げてみる。ある物理学者が\(V_k^l=R_kT^l\)という数式を発見したとする。一つ注意だが、テンソルは基本、アインシュタインの縮約規則を用いて記載されるのでこの数式もアインシュタインの縮約規則で書かれているとする(ここではあまり重要ではないので気にしなくてもよい)。ただし、この\(V_k^l\)と\(R_k\)と\(T^l\)はある観測者Aから観測した物理量であるとする。この物理量というのは例えば、ある物体の速さとか、体積とか、時間といったものである。物体の速さで言えば、ある自動車の走行速度は同じ速度で走っている人から見れば静止しているように見えるだろうが、地表に対して静止している人からみればある速度で動いているように見える。このように物理量によっては観測する人の立場によっては観測値が異なるということだ。そこで、観測者Aとは別に観測者Bがいたとして、Bから見ると、先のAから見た\(V_k^l\)、\(R_k\)、\(T^l\)は\(V_k’^{l}\)、\(R’_k\)、\(T’^l\)と観測されるとする。ここで先ほどの物理法則は皆、同じであってほしいということをこの世の原理(証明はないが正しいと思われる考え)を認めると、Bにも\(V_k’^{l}=R’_kT’^l\)という数式が成り立っていると考えられるだろう。または、成り立ってほしい。この要望を保証してくれるものがテンソルであるということである。さらにより詳しく説明すると、別の観測者同士で同じ対象の物理量でも違う値\(V_k^l\)、\(V_k’^{l}\)を観測したとして、\(V_k^l\)、\(V_k’^{l}\)の間には観測者の運動状態などに依存して何かしらの関係が存在すると考えられる。その何かしらの関係が分かれば、ある観測者の観測値Vから別の観測者では観測値\(V_k’^{l}\)で観測されるだろうとわかる。このように、ある観測者の観測値から別の観測者の観測値を導き出すこと座標変換という。つまり、座標変換とは、ある観測者からの視点から別の観測者の視点へ切り替えることをいう。そして、別の観測者の視点に立ったときにも同じ物理法則(数式)が成り立つことを「物理法則(数式)は座標変換に対して不変である」という。\[V_k^l=R_kT^l\overset{\text{座標変換}} {\Rightarrow}V_k’^{l}=R’_kT’^l\]

そして、「物理法則(数式)は座標変換に対して不変である」ということを保証するには、\(V_k^l\)、\(R_k\)、\(T^l\)がそれぞれテンソル(正確にはテンソルの成分)でなければならないということである。つまり、テンソルである物理量のみを用いた物理法則(数式)は座標変換に対して不変であるということが言える。また、このような理由からテンソルは用いられており、特に相対性理論では、仮定としての物理法則は皆、同じであるという考えを採用しているため、テンソルの概念が重要である。

 次の記事では、具体的にテンソルの定義と例を説明する。
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