2-2.テンソルの定義

相対性理論を理解するための数学

テンソルの定義

 

 テンソルについては前のテンソルとは何か?についての記事で説明したように「数式が座標変換に対して不変であることを保証するもの」である。今回の記事では、テンソルの定義を書いていく。しかし、テンソルの定義といっても数学の専門書ごとに別々に複数の定義が載っており、私が知る限りでは4つ存在し(多重線形関数、普遍性、自由加群に対しての同値類、テンソルの成分)、どれも同値である。今回はよく物理で用いられるテンソルの成分による定義を紹介する。

テンソルの定義

定義:テンソル場
 任意の座標系\(x^\mu\)と座標系\(y^\mu\)が存在し、それらの座標系の間には\(y^\mu = y^\mu (x^1,x^2,\cdots x^n)\)という関係があるとする。座標系\(x^\mu\)、\(y^\mu\)において\(n^{r+s}\)個の関数の系(集まり)\((\tilde{F}^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)、\((F^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)がそれぞれ与えられ、それらの関数系の間には

\[F^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s}(y^\mu)=\frac{\partial y^{i_1}}{\partial x^{k_1}}\cdots \frac{\partial y^{i_r}}{\partial x^{k_r}}\frac{\partial x^{h_1}}{\partial y^{j_1}}\cdots \frac{\partial x^{h_s}}{\partial y^{j_s}}\tilde{F}^{k_1,\cdots k_r}_{h_1,\cdots h_s}(x^\mu)\tag{1}\]

の関係が成り立つとき、\((\tilde{F}^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)(\((F^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\))を座標系\(x^\mu\)(\(y^\mu\))における\((r,s)\)次テンソル場\(F\)の成分または\((r+s)\)階のテンソル場\(F\)の成分という。※すべての添え字は\(1,\cdots ,n\)の値を取る

※(1)においてアインシュタインの縮約規則を用いている。

定義の説明

 まず、2つの座標系は任意に取ることができるが、二つの座標系の間の関係が分かっていなければならない。たとえば、直交座標系と極座標系の関係といった感じである。その関係を示す数式が一般的に書くと、\(y^\mu = y^\mu (x^1,x^2,\cdots x^n)\)であるということである。
 \(F\)という概念の量(例えば、速度や力など)があったとして、その\(F\)という量は観測者の見え方(座標系)によって異なる\(r+s\)個の数の組\((\tilde{F}^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)を持つ。例えば、速度でいったら、\(x\)、\(y\)、\(z\)の3つの方向の成分をもつといった具合である。そして、\(n^{r+s}\)個の数の組\((\tilde{F}^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)は\(x^\mu\)座標系で表される空間の点ごとに異なる値を取る。例えば、天気予報の風速において、場所ごとに風速と風の吹く方向が違うといった具合である。同様に\(F\)という量について\(y^\mu\)座標系では\(n^{r+s}\)個の数の組\((F^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)となっていて、それが\(y^\mu\)座標系の空間の点ごとに違う値をもつということである。
 そして、\(x^\mu\)座標系での\(n^{r+s}\)個の数の組\((\tilde{F}^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)と\(y^\mu\)座標系での\(n^{r+s}\)個の数の組\((F^{i_1,\cdots i_r}_{j_1,\cdots j_s})\)に(1)の関係がなりたつとき、それらをテンソル場\(F\)の成分と定義したということである。
 よくこの定義で誤解されるのは、テンソルというのはベクトルや行列を一般化したものである考える方がいるが、それがテンソルの本質というわけではなく、前の記事で説明したように「数式が座標変換に対して不変であることを保証する」という部分が本質である。そして、テンソルの定義の(1)が別々の座標系の間に成り立てばよいということである。

参考文献

・村上信五「多様体」共立出版

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