2.相対性理論の背景

相対性理論

相対性理論の背景

 

相対性理論の背景の概要

 相対性理論が発表される1800年代までは
          ・ニュートン力学\[m\frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2}=\boldsymbol{F}\]

          ・電磁気学\[\begin{align}div\boldsymbol{E}=4\pi\rho\qquad\quad &\qquad\quad div\boldsymbol{B}=0\\\\rot\boldsymbol{E}+\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial{t}}=0\qquad &rot\boldsymbol{B}+\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial{t}}=\frac{4\pi}{c}\boldsymbol{j}&\end{align}\]

が物理学の主流であり、この2つの理論を用いればこの世の中のすべての現象は理解できるものと考えられていた。
 しかし、今回の記事で後に紹介するようにニュートン力学と電磁気学の間で主張が食い違う部分が存在し、かつ光の速さについての実験結果も予想と反するものであった。そのため、ニュートン力学と電磁気学及び実験結果との齟齬を上手く解消する新しい理論が必要となったというのが大まかな相対性理論が発表されるまでの背景である。今回の記事では背景をさらに深く理解したい方のためにニュートン力学におけるガリレイの相対性原理電磁気学について説明していく。

ガリレイの相対性原理

 「ニュートン力学はガリレイの相対性原理を満たす」といきなり言われてもニュートン力学について勉強したことがない方からすると全く何を言っているか分からないと思う。今後、力学についての記事を書く予定ではあるが、今回の記事である程度説明しておく。

 まず、「ガリレイの相対性原理」とは、「ガリレイ変換に対して不変である」ということを言っている。つまり、「ニュートン力学(ニュートンの運動方程式)はガリレイ変換に対して不変」であるということだが、ニュートンの運動方程式?ガリレイ変換?に対して不変?となるであろう。もっと細かく例をあげながら説明する。

ニュートンの運動方程式

 まず初めに、ニュートンの運動方程式について説明する。\[m\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F}\]

 上記の式がニュートンの運動方程式であるが、これは何を言っている式かというと、右辺の\(\boldsymbol{F}\)がある物体Aにかかる力を表しており、左辺が物体Aの質量\(m\)と加速度\(\boldsymbol{a}\)である。加速度とは物体の速度の変化の度合を表す量であり、ニュートンの運動方程式は加速度と質量を掛けた値が力に等しいということを示しいる。別の表現をすれば、「ある物体の加速度はその物体の質量に反比例し、その物体にかかる力に比例する」ということになる。これはニュートンの第2法則と呼ばれている。ここで、注意だが、ニュートンの運動方程式は「慣性系」において成り立つ方程式である(非慣性系においても適用することは可能だが詳しくは力学の記事に書く)。「慣性系」とは、例えば、加速していない車の中や電車の中にいる人の環境を示す。

ガリレイ変換

 次にガリレイ変換だが、これはある慣性系にいる人とそれとは別の慣性系にいる人の視点の切り替えを示している。
例えば、AさんとBさんがいたとして、Aさんに対してBさんはの速さ\(\cal V\)で等速直線運動していたとしよう。そのとき、Aさんからの視点ではBさんは\(\cal V\)の速さで移動しているように見え、BさんからはAさんが\(-\cal V\)の速さで移動しているように見える(Aさんとは逆の方向に移動しているように見える)。このAさんとBさんの視点または立場を変えることをガリレイ変換という。数式でガリレイ変換を表現すると下記の式になる(この式については力学で説明予定)。\[x_B=x_A-\cal V\it t_A\qquad t_A=t_B\rm\tag{1}\]

ここで、ニュートン力学の前提を話しておく。ニュートン力学においては光の速さは観測者によって異なるということである。つまり、Aさんがもし光をBさんの進行方向と同じ方向に出したとして、Bさんからその光を見ると、光の速さはAさんよりも遅く見えるということである。

「ニュートンの運動方程式がガリレイ変換に対して不変」の意味

 さて、ニュートンの運動方程式とガリレイ変換の説明を終えたので、ようやくガリレイの相対性原理を理解する準備が整った。「ニュートンの運動方程式がガリレイ変換に対して不変」の意味を理解するために、再度、例を挙げて説明する。

 Aさんと、Aさんに対して一定の速さ\(V\)で移動しているBさんがいたとする。つまり、Bさんから見れば、Aさんは\(-V\)の速さを持って移動しているように見えるということになる。また、二人とも何も力を受けてはおらず、無重力及び空気が存在しない空間にいるとする。つまり、AさんとBさんは慣性系であるといえる(重力も外力とみなせば無重力という仮定は必要ないが簡単のため極端な状況にした)。

 ここで、想像していただきたのだが、仮にAさんがBさんの進行方向にボールを投げたとして、AさんとBさんから見てボールに力は加わっていないと見えるだろう(もしくはそう仮定する)。さらに言うと、ボールは二人から見て、減速または加速しているようには見えないだろう。また、AさんとBさんの間でボールについての主張で異なるのは速さだけであり、加速度と力の関係は同じであろう。ここで、注意だが、ボールの質量の見え方も両者で主張は同じであるとする(相対性理論では異なる)。つまり、AさんとBさんの両者ともニュートンの運動方程式がボールに対して成り立っていると感じている。これが「ニュートンの運動方程式はガリレイ変換に対して不変である」の意味である。つまり、同じ対象について誰からみてもすべての人が同じ法則がその対象について成り立つと言えるということをニュートンの運動方程式という法則にも適用できるということを言っている。数式で示すと下記の式になる(数式の解説については力学で説明予定)。\[m\frac{d^2x_B}{dt^2}=m\frac{d^2(x_A-Vt)}{dt^2}=m\frac{d^2x_A}{dt^2}\qquad f_B=f_A\]

しかし、AさんBさんともに慣性系にいて、慣性系でのみニュートンの運動方程式が成り立つと言っていたのだから、ガリレイの相対性原理が成り立つのは当然であると感じられるかもしれない。しかし、そのような誤解はAさんとBさんの視点を変える時にはガリレイ変換であるという先入観に囚われているためである。ニュートン力学では慣性系の間の視点の切り替えをガリレイ変換としているが、相対性理論ではガリレイ変換ではなく、ローレンツ変換というものになり、ローレンツ変換に対してニュートンの運動方程式は不変ではなくなるため、相対性理論ではニュートンの運動方程式をローレンツ変換に対して不変となるように修正している。このことは後の電磁気学のマクスウェル方程式において出てくるため、覚えておいていただきたい。

絶対静止系 

 ガリレイの相対性原理について、追加で先の例について注意しておく。AさんとBさん両者とも「私は止まっていて、相手が動いている」という同じ主張をすることが可能であり、どちらも間違えではない。また、両者から見てニュートンの第2法則が等しく成り立つ。つまり、AさんとBさんのどちらかが止まっていて、どちらかが動いていたという議論自体意味を成さないのである。さらに言えば、ニュートンの運動方程式はガリレイの相対性原理を満たすため、「すべての観測者は同等である」ということが言え、実際、ニュートンの運動方程式は誰か特別な観測者を対象とせずとも成り立つ方程式である。つまり、この世の基準として考えられるような特別な観測者(絶対静止系)は存在しないということになる。

マクスウェル方程式

\[\begin{align}div\boldsymbol{E}=4\pi\rho\qquad\quad &\qquad\quad div\boldsymbol{B}=0\\\\rot\boldsymbol{E}+\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial{t}}=0\qquad &rot\boldsymbol{B}+\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial{t}}=\frac{4\pi}{c}\boldsymbol{j}&\end{align}\]

 ガリレイの相対性原理について説明したので、次に電磁気学において最も重要なマクスウェル方程式から得られた結論について説明していく。まず、マクスウェル方程式とは?と思う方もいるかと思うので、簡単な説明だけしておくと、アンペールの法則(電流を流すとその周りに磁場が発生する)やファラデーの電磁誘導の法則(磁石を動かすとその周りにあるコイルに電流が流れる)といった物理学者が実験によって発見した電気と磁気についての法則を数学的に整理し、4つの方程式にまとめたものである。マクスウェル方程式の意味や導出については今後、電磁気学の記事を挙げる予定である。

電磁波の存在の予言と光の正体

\[(\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}-\nabla^2)\boldsymbol{E}=0\qquad  (\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}-\nabla^2)\boldsymbol{B}=0\rm\tag{2}\]

 マクスウェル方程式から得られる最大の結論はなんといっても電磁波の存在であろう。マクスウェル方程式の4つの数式を組み合わせて整理すると、上記のような電場と磁場についての数式が得られる。これは波動方程式という数学では波を表す数式となっており、電場と磁場が波として存在することを予言している(電場と磁場の波という意味で電磁波)。また、この数式から電磁波の速さが計算でき(上記の波動方程式において\(c\)が波の速さを示す)、当時、実験結果から分かっていた光の速さとほぼ一致した。この事実が分かるまで、光の正体は長らく疑問であり、光が「粒子」であるとする説光は「波」であるとする説があったが結論はでないままであった。しかし、電磁波と光の速さがほぼ一致したことにより、光の正体は電磁波であるということがわかり、さらには光は波であるという考え方が強くなった(後に光は波と粒子の2つの性質を持つという「光の二重性」という考え方に落ち着く)。

エーテルと絶対静止系の存在の可能性

 しかし、光が「波」であるという考え方をすると、音が空気を媒質(波を伝える物質をエーテルと呼ぶ)として伝わるように、光にも世界中の空間を満たしている媒質(エーテル)が存在するのではないかと考えられた。エーテルが存在するという考え方に立つと、観測者がエーテルに対して速度を持って移動していた場合、光の速さは一定ではなく、観測者によって異なる。

 また、ガリレイの相対性原理でも述べたが、何か基準となるようなもの(今回はエーテル)が存在したときに、その特別な基準に対して静止している観測者は絶対静止系として考えることができるようになる。
 当時の物理学者はエーテルが存在するという予想が大勢であった。さらに、その予想から音の場合を考えてもらえれば分かると思うが、「光の速さは観測者によって異なる」というさらなる予想を立てていた。

ニュートン力学と電磁気学の食い違い

 光の速さが観測者によって異なるかどうか実験結果を説明する前に、もし、光の速さが観測者によって異ならない(一定)と仮定した場合と観測者によって異なると仮定した場合にどのようなことが考えられるのかを説明する。

光の速さが観測者によって異ならない(一定)と仮定した場合

 光の速さが観測者によって異ならない(一定)と仮定した場合、マクスウェル方程式はすべての観測者において成り立つということが言える。なぜなら、マクスウェル方程式から導出された電磁波の波動方程式の形を、光の速さが観測者によって変わらないため、変える必要がないためである。\[(\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t_A^2}-\frac{\partial^2}{\partial x_A^2})\boldsymbol{E_A}=(\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t_B^2}-\frac{\partial^2}{\partial x_B^2})\boldsymbol{E_B}\]

 しかし、下記の式に示すようにマクスウェル方程式はガリレイ変換に対して不変ではない。(下記の式の電場はガリレイ変換により値は変わらないと仮定)\[(\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t_A^2}-\frac{\partial^2}{\partial x_A^2})\boldsymbol{E_A}=(\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t_B^2}+\frac{1}{c^2}(V^2-2V\frac{\partial^2}{\partial t_B\partial x_B})-\frac{\partial^2}{\partial x_B^2})\boldsymbol{E_B}\rm\tag{3}\]

 物理学者は、証明はないが正しいとされる考え(原理)があった場合、その考え方はすべての理論に適用できてほしいという願望がある。ガリレイの相対性原理はニュートンの運動方程式に適用はできることを先に説明はしたが、マクスウェル方程式はガリレイ変換に対して不変であってほしいがそうではない。つまり、光の速さが観測者によって異ならない(一定)と仮定した場合、ニュートン力学と電磁気学では上手く合わないということになる。そのため、その食い違いを上手く解消できる理論を探さなくてはいけないことになる。

光の速さが観測者によって異なると仮定した場合

 光の速さが観測者によって異なると仮定した場合、マクスウェル方程式から導出された電磁波の波動方程式の形が観測者によって変更の必要が出てくる。もっと詳しく説明すると、ニュートンの運動方程式はガリレイ変換に対して不変であり、光の速さは観測者によって異なるとしているため、ニュートンの運動方程式は変更を受けない。しかし、電磁波の波動方程式はガリレイ変換に対して不変ではないため、不変な形に修正しなければならない。その場合、観測者によって光の速さが異なるという電磁波の波動方程式(3)の右辺へ、元の波動方程式(2)から変更されなければならない。
 つまり、(3)の右辺の式はガリレイ変換に対して不変になるように(2)の式を観測者のエーテルに対しての速さを考慮したより一般的な電磁波の波動方程式としたということである。この式は、修正前の電磁波の波動方程式はエーテルに対して静止している観測者に対して成り立つ方程式ということを示している。ニュートンの運動方程式は絶対静止系を仮定しなくとも成り立つが、マクスウェル方程式はエーテルに対しての絶対静止系の存在を前提とした方程式ということになり、ガリレイの相対性原理における絶対静止系の存在の否定と異なる結論が得られてしまう。つまり、ガリレイの相対性原理の絶対静止系の存在の否定を否定しなければならなくなる。

マイケルソン・モーリーの実験結果

 先にも書いたが当時の物理学者は光の速さは観測者によって異なり、エーテルが存在すると予想していた。そして、それを確かめる実験が1887年にマイケルソンとモーリーによって行われた。この実験については詳しくは述べないが、この実験以前もエーテルの存在を確かめる実験はいくつも行われている。しかし、十分な精度がなく、エーテルの存在の可否はわからないままであったが、マイケルソンとモーリーの実験により、光の速さは観測者によらず一定であり、エーテルの存在は否定された。
マイケルソン・モーリーの実験結果より、エーテルの存在は否定されたため、マクスウェル方程式はすべての観測者において成り立つということがわかり、電磁気学の正しさが、再度確認されたが、同時にガリレイの相対性原理とそれを満たすニュートンの運動方程式は修正される必要があることがわかった。もっと具体的には、光の速さは誰からみても同じ速さであるということ新しい運動方程式は誰からみても同じ方程式の形をしていることの二つを満たしているように修正される必要があった。

そこで、登場したのが20世紀最大の物理学者アルベルト・アインシュタインである。

 前回の記事でも紹介したようにアインシュタインは1905年に特殊相対性理論を発表し、ニュートン力学と電磁気学及び実験結果との齟齬を解消した。

今回の相対性理論の背景についての説明は以上になります。頑張ってここまで読んでいただきありがとうございました。

さらに詳しい相対性理論の内容についても今後、更新していきますので、お楽しみに。

参考文献

・現代物理学入門講義シリーズ 「相対性理論入門講義」 風間洋一著 (培風館)

・「一般相対論入門」 須藤靖 (日本評論社)

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